僕の若い頃、仕入れ先開拓で苦労した話だ。店の売る力は品揃えの善し悪しで決まる。その品揃えは仕入れ先の商品力である。その商品力は三年から五年たつと、その店では力を失ってくる。だから常に新規の仕入れ先を開拓していなければいけない。
僕は力のある新しい仕入れ先を見つけると、必ず自分の足で歩いてその会社を訪問することにしている。タクシーに乗ったり、その会社に電話して道順を聞いたり「近くの駅まで迎えにきてくれませんか」などと言うようでは新しい取り引きは始まらない。
仕入れ先の住所がわかっているのだから区分地図帳で調べて近くの地下鉄の駅を確認する。そこからどの道を歩いてどこを曲がってと詳細に道順を把握する。ところが実際に行ってみると必ず道を迷う。
地下鉄の駅を上がるとときには反対方向に歩いてしまい、三十分や一時間くらい歩き回ることもある。近くまで来ているはずなのにその会社が分からない。夏には汗だくになり立ち止まって休み、ふと顔を上げると目の前にその会社があるなんてことも多かった。
こういう場合、僕は前もってアポイントを取ることはしなかった。突然会社のドアーを開けて中に入るのだ。
「こんにちは。私こういう者です。おたくの会社の商品をぜひ仕入れたくて伺いました」と言ってひたいの汗を拭うのだ。「えっ、小売店のバイヤーの方ですね。いま担当の者が留守でして、ちょっとお待ちください」と慌てて上司に報告する。そして直接に部長や社長と会うことができる。
「うちの会社は場所が分かりにくくって、小売店の方が直接たずねて来られたのは始めてですよ」と驚く人が多い。「新規の仕入れ先をさがして訪問するのは僕の仕事ですから」と、さも当然という顔をする。
僕は小売店が仕入れ先の問屋やメーカーを訪問するのは当然のことであって、それが突然であっても、お客が訪問するのだから何が悪いのか、という信念を持っている。
なかには「おたくの地域のセールス担当者がいまおりませんので、後日お店へ伺わせます」と言う場合もある。だが、いまお客が汗をかいて歩き回って会社を訪問し「商品を仕入れたい」と言っているのだから、いまの売れ筋商品を見せてくれるなり、どんなブランドの品揃えが出来るのかを説明してくれるのが当たり前だと思う。
面白いもので会社の住所が分かりにくい会社ほど、探し回って小売店が来てくれたことに感激するらしく、担当者がいないからと門前払いするところは少ない。
僕は仲間の小売店から紹介してもらうと言うのもやらない。紹介者がいると、その会社の取り引きをやめたいとき紹介者に了解を得なければならないことがあるからだ。
自分の足で歩き、汗をかいて体を張って仕入れ先を開拓する姿勢がなければいけない。
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