店は初売りのお客で混雑していた。売り場が狭いのでコートを吊ったラックを空いている所へ移動させて、売り場のあっちこっちへ動かしていた。閉店近くになってその混雑も終わり、ホッとしていたら大変なことがおきていた。
「あれっ、この白いコートの腕のところが真っ黒に汚れている。どうしたんだろう」と言う声が掛かった。「こっちのコートも同じだ」と言うのだ。
お客さんの持ち物の色がこすれて汚れたのか、あるいは何かの商品の色がコートに移ったのだろうか、と原因追及にみんなの意見が出た。原因は分からないままクリーニング店に出して、その真っ黒の色はきれいに落ちた。
それから数日してコートを真っ黒に汚した原因が判明した。なんとそれは海外から輸入した真っ黒な裏革のベルトである。このベルトの染色に固い色止めがされていなかったのだ。よく見ると深い黒さを出すために革の表面に黒い塗料が塗られていた。それが日時がたつと粉末になって表面に出てきたのだ。
その粉がコートの腕と擦れて色移りしたのである。このベルトは売らないことにしたが、実は同じようなことが海外輸入品には続発している。
カジュアルな鞄の内側で、真ん中に仕切り板があるものをお客に販売したらクレームが付いてきた。
「この鞄ねぇ、仕切り板のこっちに入れた物が反対側から出てくるんだ。原因を調べると底で右左の仕切板がしっかり接着していないんだ。だから中で移動してしまう」と言うのである。
「これは日本とは国民性の違いで、そのあたりを丈夫に作る習慣がないのだと思います」と説明したが、結局国産の鞄と交換することになった。
またビジネス鞄の仕入れのときに特別の注文を付けたことがある。
「いま日本では肩に掛けるベルトがないと売りにくい。そのベルトを付けることが出来るだろうか」と言ったら「いいよ」と言うので注文した。
やがてその鞄が到着してベルトを確認すると、金具がデザイン化されていて少しきゃしゃであることが気になったが、プロメーカーの作ったものだから、と売り場に出した。ところがこれもクレームが付いてきた。使っていたらその金具がねじ切れてしまったと言うのだ。
しかし、日本のビジネスマンは想像以上に多くの書類を詰め込み、重さは驚くほどである。これでは並の金具では切れてしまう。無骨な丈夫さ本位の金具を付けるしかない。しかしそれではデザイン性を失う。これも国民性の違いであろう。
つまり少し丈夫さを犠牲にしてでもデザインを優先して商品を作るのがその国の国民性であろう。それと比べて日本はデザイン性を犠牲してでも丈夫さを優先する。品質の基準は丈夫さ一辺倒であるのが日本なのだ。海外輸入の品を扱ってみて国民性で品質の基準が違うとわかりよい勉強になった。
|