「君ねぇ、服は岩国のメンズUで買っているんじゃない?なんとなくそんな気がするんだけど」
「はぃ、僕も課長がメンズUで服を買っておられるんじゃないかと思っていたんですが、着ておられる服の色目や型が、僕も欲しくなるようなものばかりでしたから」
「そうか、やっぱりそうか。じゃ同じ着こなし仲間ということだ。このネクタイはオリジナルだよ」
「はぃ、それは間違いなくオリジナルのレジメンタイです。僕も五、六本持っています」
と言って二人は長年の親友のような付き合いになったという。
こういうフアン客同士の話はかなり前から僕の店にはあった。これは神話のような話だが一番インパクトの強い話だ。
二十年も前のことだが、ある大型量販店との取り引き開始をねらって地元の中小企業の担当者はバイヤーのところへ日参していたが、どうしても話がまとまらなかった。
そこへメンズUの古いお得意客である若い担当者が始めて話しに行って驚いた。そのバイヤーはトラッドな服でキチンと固めていた。もちろんお得意客もトラッドマンである。
二人は遠くからお互いを目ざとく見付けてマークしていた。話し合いに入っても着ている洋服のことが気に掛かってしかたがなかった。
やがて商談が終わってみると、お互いが古くからの親友のような親しさをおぼえ、着こなしの趣味が同じであることは他の好き嫌いもよく似通っていた。そのことから取り引き開始の話もとんとん拍子に進み、巨大な取引額になったという。その若い担当者はいま経理部長として活躍しておられるという。
僕の店はトラッドマンを志向した専門店を開業して五十年になる。お得意客同士の話し合いが親友に発展するには店が古くなければならないが、ただ古いだけではいけない。店の品揃えの基本姿勢が一貫して変わらない状態でなければいけない。
時の流行は目まぐるしく変化する。その中で品揃えを変えない店は大変である。流行が一致していればよく売れるが、流行から外れると見るも無惨に売上げを落とす。そうした大きな変化にも耐えながらの五十年である。
もちろん品揃えだけでなく売り方も変えない保証がいる。個客中心の接客を守り続ける姿勢も必要である。だがこうした店の基本姿勢を守る商売は他の業界にはたくさんのお店がやっておられる。料理店や菓子屋、旅館などには百年以上も続けておられる店がたくさんある。
古くからのものを守るだけではいけないのであって、時流に合わせて進化させる努力もいる。品揃えの幅も広げていく努力も必要であろう。また店からの新しい話題の提供もやらなければいけない。そうした努力の結晶が五十年の店の歴史を築けるのである。
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