nobsan.gif



野鳥図鑑

 このほど岩国の駅前から立て続けに本屋がなくなった。スーパーマーケットの4階にあった大きな書店はフロアごと閉鎖され、商店街の至便な店はなにやら洒落たカラオケ屋に変わってしまったのだ。
ビニールカバーで覆った装丁。携帯至便!  暇潰しがてらに書店を漫然と徘徊し、面白そうな本を探しだしては愛読していたから、以来、まったく不便に窮する毎日である。理由のほどは定かではないがそれは置いておくとして、先だって珍しく目的をもって本屋を訪ねることになった。
 お目当ての本とは鳥の図鑑だ。それもポケットサイズのやつを。
 さて、月日も弥生となると各地の川で渓流魚の禁漁期が解かれる。今年もテンカラ釣りに東奔西走する手はずでいるわけで、今から余念を挟まぬ支度に精を出しているのだが、昨年来を回顧するにつけ、どうにも気になって仕方のないことがあった。それが鳥だ。
 毛鈎針を振り込む渓流というのは、なべて深く山を分け入ったところ...たとえば錦町や宇佐郷よりさらに奥入った標高の高い山中にある。流水はあくまでも冷たく透明で、水苔さえ生えない。草木は生まれたままの姿を保って鬱蒼と景色を成す、極めて素朴なロケーションである。
 一日は「まづめ」と呼ぶ日の出ころから竿を出すことに始まる。昼下がりには川辺で弁当なぞ広げせしめて、後に昼寝に勤しむのがいつもの日課なのだけれど、このしばしの休息どきに陽当たりの良い大岩に寝そべると、まこと多種多様な野鳥が目に留まる。
 一瞬の呼吸に全神経をとがらせているテンカラ釣りの最中には、とうてい眼中に入らないかわいらしい小鳥たちが、あちらの枝からこちらの木へと思うが侭に飛び交うのである。
 朧気な気分で惰眠に陥るとき、いろいろな啼き声をあげながら無遠慮なまでに間近へ寄ってくる彼らには、どうやらそれぞれに性癖というか性分というか、生態に特徴があるらしい。うぐいす色の嘴が長いやつはいつも番(つがい)でいるようだし、褐色の小さいのはよく水辺でちゃぷちゃぷとやっていて、こりゃまったく興味津々である。 もはや釣り道具のひとつ...
 まあ、「バードウォッチング」といえるほど高尚な趣味ではないのだけれど、何も分からないよりは名前の一つでも覚えていれば、昼寝もまた愉快なひとときになろうというものだ。せっかく近寄ってきた小鳥たちにも、そうだ幾許かの敬意をはらってやろうと思うのだった。
 かくしてテンカラ釣りに携帯できそうな野鳥図鑑を落手した次第。主婦の友社、刊行。ポケット図鑑「野鳥」藤本和典、著。掌サイズのビニールカバー付きで、金千五百円也。
 しめしめ、これで次回からの源流釣行に大いなる楽しみがひとつ増えた。何故って、夜明けから懸命に竿をふって一尾の山女魚も釣れなかったとき、せめてもの慰めになるではないか。嗚呼、無情。




* 野鳥図鑑 *