一年が明けた。相変わらず昼夜を問わない大晦日から元旦を過ごし、ようやく冬の休暇である。ガレージへ...。
シャッターを開けると埃っぽい空気が立ちこめていた。MGBの住処を侵食したモノを一つずつ除ける。白いコットンのカバーは薄らと灰色を帯びて、静止したままの時が過ぎたことを思わせる。
『かかるかな?...クラッチは?』
放置しておいたクルマが苛まれる様々な症状が頭をよぎる。
ハンドブレーキが解放してあることを確認し、タイアの輪留めを外して、右手をハンドルに、左手を座席後ろの
エクステンションバーへ。
「いっせーのっ!」
満身創痍でクルマを押して、ガレージから出してやった。そうして運転席に座ってみた。MGBで駆ったあらゆるシーンが追憶の中から湧いてきた。
ヘルメットにレーシングシューズでサーキットが、役に立たぬ屋根を着けて雹と雪の混じる海岸線が、椛(もみじ)の中で夕陽に染め上げられた濃紺の車体が、桜吹雪に嬉々として駆けめぐった街道が、古びたフロントガラスの向こう側に浮かんできた。
「よっ、久しぶりだな、相棒!」
ハンドルを握って、思わず声をかけた。
さて、エンジンはかかるのだろうか。まったく無視したままの4ヶ月・・・バチが当たったって仕方ない。
そう思いながらスターターを回してみると、嗚呼無惨。極寒の朝のこととは言え、燃料ポンプは動くもクランキングは不能。仕方なくブースターケーブルを持ち出し、現役自動車の助けを借りることにあいなった。